今回の事故のこと
今回の原発事故の規模を概観するのにぴったりの動画を。
東大の「アイソトープ総合センター」長である児玉龍彦教授が、衆院厚生労働委員会に参考人として呼ばれ、今回の事故に関しての意見陳述をしている動画です。1週間ほど前にネット上で大きな話題になり、一部テレビ・新聞でも報道されました。
アイソトープセンターは事故から福島宮城に赴き除染活動をしており、もともとガン治療に放射線を使う、いわば内部被ばくの専門家でもあります。その専門家が、現在の国会に対して、非常に怒っています。子ども達を救うために、今すぐやらなければいけないことを、国が何もしていない。そのことに対して本当に怒っています。
動画を見れば分かる通り、教授はしばしば時間を確認しつつ、与えられた時間内で伝えるべきことをすべて伝えるべく、最大限の考慮をしているように見受けられます。だからこそこの意見陳述は多くの人の心を打ちました。
事故から4ヶ月経ち、いくらなんでも人の命を救うべく国は動いてるんだろうと、恐らく殆どの人が当たり前に思っていますが、その当たり前の事が物の見事に、すべからく行われていません。
私もこんなことを書きたくありませんが、この4ヶ月の動きから見えてくるのは、「より多くの国民の命を救う」のではなく、「より賠償金を少なく」するために、我が国政府は最大限の努力を払っているようです。
放射性物質の動きが同心円上になんて広がらないことを当初から承知の上で、(累計128億、今年だけで7億予算を計上している、この時のために開発・維持してきた)SPEEDIのデータを今だに即時公表せず、汚染の低い町から毎日100万円かけて、汚染の高い町の学校へ子どもを通わせています(教授の話にも出てきますが、恐らくこれも国は折込み済)。
放射能汚染の牛肉の問題、流通してしまった後に対策がとられましたが、誰もが予測しえていたこと。当初からその可能性を考えて飼料をすべて輸入に変えていた畜産家もいましたが、その努力も全て無に帰しました。そしてまったく同じ、いやそれ以上に危険性をはらんでいる牛乳の問題。現在まったく国から話が出ていませんが、これも流通が終わり何らかの実害・データ・クレームが出てから出荷停止処置がとられるのでしょう。私のような40過ぎの大人には大した問題ではありませんが、小さな子ども達、赤ちゃん、そして一番影響を受けるのが妊婦さん達、これから子を産む若い女性達。どうか自ら情報を得て判断し、自分で行動してください。国が決めた基準値は、残念ながら「健康優先」ではなく「お金優先」の基準値のように思えます。
被災地では今も変わらずに、さまざまなレベルで問題が生じているのでしょう。いずれにしてもとにかく仕事が必要な筈で。放射能の問題より先に、食べていかなくてはいけない。そのために本来私たちがさまざまな協力やアイデアを実施して、復興に向けてサポートしていかなくてはいけないのに、身の回りは放射能の問題で国がマトモな情報を流さないために、それを知っている人・知らない人。気を付けたい人とできるだけ知りたくない人の間で、摩擦が生じ、小さな子を持つ周りのお母さんは本当に悩んでいます。
放射線はすべてを壊す、とはよく言ったものですが、これからずっとずっと付き合っていかなくてはなりません。今まで恵みの象徴だった美しい森は今後もその美しさのまま、放射性物質を一番多くため込む場所に変わり、大切にしていた地産地消の考えも、栄養がある皮を大切にいただくことも、これから場合によってはできなくなることだってあるでしょう。
だけどほとんどの人は、今まで生きてきたこの場所でこれからも生きていかなくてはいけない。それを受け入れて、どうやって付き合っていくかを考えています。
同時に、何故このようなことになったのか。自分自身を反省し、これから同じことを繰り返さないように行動していきます。一つ後の記事で書く田中優さんの考えは、そのための大きな指針や希望を与えてくれると思います。多いにオススメします。是非聞きに行ってください。
さて児玉教授のお話なのですが、動画も消されたり戻ったりいろいろあるので、以下に文字起こしを引用しておきます。引用元はこの記事です。
明日に向けて(208)放射線の健康への影響について(児玉龍彦教授国会発言)改訂版
(前略)
ところが今回の福島原発の事故というのは、100キロ圏で5マイクロシーベルト、200キロ圏で0.5マイクロシーベルト、さらにそれを越えて、足柄から静岡のお茶にまで汚染が及んでいることは、今日、すべてのみなさんがご存じの通りであります。
われわれが放射線障害をみるときには総量を見ます。それでは政府と東京電力はいったい今回の福島原発事故の総量がどれぐらいであるかはっきりとした報告はまったくしていません。
そこで私どもはアイソトープセンターの知識をもとに計算してみますと、まず熱量からの計算では広島原爆の29.6個分に相当するものが露出しております。ウラン換算では20個分のものが漏出しています。
さらにおそるべきことにはこれまでの知見で、原爆による放射能の残存量と、原発から放出されたものの残存量は1年経って、原爆が1000分の1程度に低下するのに対して、原発からの放射線汚染物は10分の1程度にしかならない。
つまり今回の福島原発の問題はチェルノブイリ事故と同様、原爆数十個分に相当する量と、原爆汚染よりもずっと大量の残存物を放出したということが、まず考える前提になります。
(中略)
それから先程から食品検査と言われていますが、ゲルマニウムカウンターというのではなしに、今日ではもっとイメージングベースの測定器が、はるかにたくさん半導体で開発されています。なぜ政府はそれを全面的に応用してやろうとして、全国に作るためにお金を使わないのか。3カ月経ってそのようなことが全く行われていないことに私は満身の怒りを表明します。
(中略)
第二番目です。私の専門は、小渕総理のときから内閣の抗体薬品の責任者でして今日では最先端研究支援ということで、30億円をかけて、抗体医薬品にアイソトープをつけて癌の治療をやる、すなわち人間の身体の中にアイソトープを打ち込むのが私の仕事ですから、内部被曝問題に関して、一番必死に研究しております。
そこで内部被曝がどのように起きるかということを説明させていただきます。内部被曝の一番大きな問題は癌です。癌がなぜ起きるかというと、DNAの切断を行います。ただしご存知のように、DNAというのは二重らせんですから、二重のときは非常に安定的です。
それが細胞分裂するときは、二重らせんが1本になって2倍になり、4本になります。この過程のところがもの凄く危険です。そのために妊婦の胎児、それから幼い子ども、成長期の増殖の盛んな細胞に対しては、放射線障害は非常な危険性を持ちます。
さらに大人においても、増殖の盛んな細胞、例えば放射性物質を与えると、髪の毛に影響したり、貧血になったり、それから腸管上皮に影響しますが、これらはいずれも増殖の盛んな細胞でして、そういうところが放射線障害のイロハになります。
(中略)
要するに内部被曝というのは、さきほどから何ミリシーベルトという形で言われていますが、そういうのは全く意味がありません。I131(ヨウ素131)は甲状腺に集まります。トロトラストは肝臓に集まります。セシウムは尿管上皮、膀胱に集まります。これらの体内の集積点をみなければ全身をいくらホールボディスキャンしても、まったく意味がありません。
(中略)
それでこの量に愕然といたしましたのは、福島の母親の母乳から2から13ベクレル、7名から検出されているというがすでに報告されていることであります。われわれアイソトープ総合センターでは、現在まで毎週だいたい4人ぐらいの所員を派遣しまして、南相馬市の除染に協力しております。
南相馬でも起こっていることはまったくそうでして、20キロ、30キロという分け方はぜんぜん意味が無くて、幼稚園ごとに測っていかないと全然ダメです。それで現在、20キロから30キロ圏にバスをたてて、1700人の子どもが行っていますが、実際には南相馬で中心地区は海側で、学校の7割は比較的線量は低いです。
ところが30キロ以遠の飯館村に近い方の学校にスクールバスで毎日100万円かけて、子どもが強制的に移動させられています。このような事態は一刻も早くやめさせてください。今、一番その障害になっているのは、強制避難でないと補償しないということ。参議院のこの前の委員会で当時の東電の清水社長と海江田経済産業大臣がそのような答弁を行っていますが、これは分けて下さい。補償問題と線引の問題と、子どもの問題は、ただちに分けて下さい。子どもを守るために全力を尽くすことをぜひお願いします。
(中略)
それからもう一つは現地でやっていて思いますが、緊急避難的除染と恒久的除染をはっきりわけていただきたい。緊急避難的除染をわれわれもかなりやっております。例えば図表にでています滑り台の下、ここは小さい子どもが手をつくところですが、滑り台から雨水が落ちて来ると毎回ここに濃縮します。右側と左側にずれがあって、片側に集まっていますと、平均線量1マイクロのところですと、10マイクロの線量が出てきます。こういうところの除染は緊急にどんどんやらなくてはなりません。
この話を受けた補足の引用です。元は
「明日に向けて(211)児玉龍彦さん発言の補足資料です…」
児玉龍彦「″チェルノブイリ膀胱炎″ 長期のセシウム137低線量被曝の危険性」(「医学のあゆみ」7月23日号)によれば、日本バイオアッセイ研究センター(神奈川県)所長の福島昭治博士らによって、前癌状態である「増殖性の異型性変化を特徴とする″チェルノブイリ膀胱炎″」が発見されている。そして、「すでに福島、二本松、相馬、いわき各市の女性からは母乳に2〜13ベクレル/kgのセシウム137が検出」されており、この濃度は、福島博士らが調査した「チェルノブイリの住民の尿中のセシウム137にほぼ匹敵する」。「そうすると、これまでの『ただちに健康に危険はない』というレベルではなく、すでに膀胱癌などのリスクの増加する可能性のある段階になっている」と警告する。
児玉は自身の南相馬における除染活動に基づいて、今の放射能汚染は「土壌の粘土分に付着したセシウム137からの放射によると思われ、土壌の除染が鍵」となっており、とくに「放射線障害は、細胞増殖の盛んな子ども、免疫障害のある病人に起きやすいことから、保育園、幼稚園、小学校、中高等学校と年齢の若い児童の接触、吸入可能性あるところから除染が急がれる」という。その際、20〜30キロの同心円の規制区域が線量の高さとずれており、早く「自治体の判断」にまかせるとともに、「賠償と強制避難を結びつけるのをやめ、住民の避難コストは東電と政府で支払うべきである」とする。そのうえで、児玉はこう呼びかける。「人が生み出した物を人が除染できないわけがない。福島におけるセシウム除染は、次の世代への日本の科学者の責任である」と。
「要するに内部被曝というのは、さきほどから何ミリシーベルトという形で言われていますが、そういうのは全く意味がありません。I131(ヨウ素131)は甲状腺に集まります。トロトラストは肝臓に集まります。セシウムは尿管上皮、膀胱に集まります。これらの体内の集積点をみなければ全身をいくらホールボディスキャンしても、まったく意味がありません。」
これは非常に重要な点だと思います。「何ミリシーベルトという形で言われていますが、そういうのは全く意味がない」つまり児玉さんは、本来、同一に測ることができない別々のもの=別々の障害を同一の、「シーベルト」という値で測ることの無理、それでは個別の臓器へのダメージが捉えられない点を指摘されたのだと思います。
これまで政府は「何ミリシーベルト」という表記で、放射線の人体へのダメージがすべからく測れることを前提に話を進めてきています。これは日本政府だけではなく、国際放射線防護委員会(ICRP)などが採用している考え方です。このもとに放射線はどれぐらいでどの程度のダメージをもたらすかという論議が組み立てられている。
もっともこの考え方の中でも食い違いがあります。ICRPが放射線にはここからは安全というしきい値が設けられないとしていることに対して日本政府は、これ以下では問題は生じない線があるという言い方をしており、事実上それを100ミリシーベルトで区切り、それ以下は無害であるとも主張しています。(ブレがありますが)
この発想のもとに、今、生涯にわたる放射線を浴びる許容値を100ミリシーベルトに定めようとする動きがありますが、これは現在、進行している牛肉のセシウム汚染問題に続いて、今秋にコメの放射能汚染問題が浮上してくるのが必至とみてとっての構えだと思われます。100ミリまでは食べても大丈夫と言いたいのでしょう。
しかしここには重大な誤りがあります。内部被曝と外部被曝を同じものとして扱い、「シーベルト」という量で測った数値を単純に足し合わせてしまう誤りです。このことで放射線核種が人体に及ぼす影響の違いが無視されてしまいます。いや無視して過小評価することに、「シーベルト」という数値化の目的とするところがあります。
これに対して、児玉さんは、「放射性ヨウ素は甲状腺に集まり、トロトラストは肝臓に集まり、セシウムは尿管上皮、膀胱に集まる」とのべています。他の核種に少し触れるなら、ストロンチウムは骨に集まり、プルトニウムは骨と肝臓などに集まります。つまり人体に与える影響がそれぞれの核種で全く違うのです。
また外部被曝で、人体を透過するのは、主にγ線です。それに対して内部被曝した場合は、それぞれの核種の出すα線、β線、γ線の全てからの被曝を受けます。α線やβ線は、γ線よりもエネルギー量がずっと多く、それだけ周りの細胞を激しく損傷します。その点も大きな違いです。
児玉さんは、放射線障害が、DNAの切断をもたらすことを述べていますが、いうなれば全身をまばらに透過していく外部被曝の場合と、局所に集中的に被曝をもたらす内部被曝の場合では、DNAの切断力もまるっきり変わってきます。(この点については児玉さんは特に言及されていませんが)
これらを踏まえて、児玉さんは「ホールボディースキャン」をしても全く意味がないと言われているのだと思います。またそもそも、ホールボディスキャンで測れるのはγ線だけであること、α線やβ線は、ほとんどが細胞内部で止まってしまって外に出てこないのでこれでは測れないことも知っておくべきことがらです。
(中略)
「シーベルトには問題が多い。シーベルトによるデータは、正確な数値を表しているかのように見える。マンスタインによれば、シーベルトを用いた定量的な記述は複雑な生物学的過程をまったく考慮しない、荒っぽい見積もりを基礎にしているという。放射線のタイプとエネルギーを一緒にすることは不可能であり、また、化学的な条件と変化を一つの同じ概念に詰め込むこともできない。肺や肝臓や腺などの個々の臓器は、それぞれ同じ組織で形成されていると考えられるが、実際は多くの機能や感受性を持つ様々な構造の何百もの細胞を含有する。さらに、体内に取り入れられた放射線核種の線量は直接計測は、複雑な計算と測定が行われなければならず、ほとんど不可能である。」(『同』あけび書房p59)
「マインスタインは「シーベルトの嘘」に言及し、以下のようにのべている。『生体に対する影響を特定化するためにシーベルトを用いることは、それに関わる複雑な問題に対して自らの無知をさらけ出すか、もしくは聞き手を欺いているかのどちらかである』」(『同』p60)
ちなみにボード・マインスタイン(1911−1977)は、ドイツのノンフィクションライター、医学博士で、原子力による被曝問題をドイツ連邦下院で訴えた人です・・・。
児玉さんが、こうした海外の研究内容を知って、あるいはそれらに立脚して、あの発言をされていたかどうかは分かりません。しかし短い言葉の中からも、基本的視座を共にしているように僕には見受けられました。そしてそうであればこそ、今、漏出しているものが一体何なのか、どの核種なのかがより問題になるのだと思います。それによって人体に与える影響が違うからです。
危険性を「シーベルト」に一元化してしまう観点ではここが見えなくなります。そこから何がどれだけ出ているかを調べずに、線量だけを問題にすればいいともなってしまう。それでは迫りくる危機の実相を正しく捉えることはできないのです。
まさにその意味で、日本のあらゆる英知を結集して、食品、水、土壌の放射能汚染(どんな核種が、どれぐらいあるのか)をきちんと測定し、その上で効果的な除染を試みる必要があります。児玉さんの提言から私たちが学ぶべき第一の点はこのことだと思います。
個人個人が自分の考えで楽観的になるのは自由ですし、他人にそれをとやかく言われる筋合いもない。だけど、基準を決めるべき国は、賠償金やその他さまざまなことを考えるばかりに、一番大切な「人」や「人心」を失わないように、ちったぁー考えたら?と思います。
まぁきっと大丈夫ですけどね。自分たち。