言葉にできないもの
週末は中越地方へ、とある酒蔵関係のお客様の元へ取材に行っていました。夜は打ち合せが終わった18時頃から飲み始め、宿に帰ったのは深夜1時頃だったでしょうか。結構な長い時間を、お酒を飲みながらお話していたことになります。魚沼の山々を望む、自然豊かな土地に育まれた食品会社です。
1年以上前から進行している、未だ完成していないブランディングのお仕事でした。それをひとまずリセットし、取材をやり直させて欲しいとお願いしたのは私の方です。それを快く了承していただき、本当に感謝しています。
何というのでしょう、あの場所で、あの空気の中で、一緒にお酒を酌み交わしながら話すことでしか得られない何かが、確かに私の中に残っています。30分前に電話しただけで、突然お邪魔させていただいた素晴らしい古民家のご主人は、お昼に炎天下の畑でお会いした麦わら帽子のおじいちゃんでした。その時は土を柔らかくするための牧草の役割などをてきぱきと説明していて、畑の達人のような方だと紹介されていて…。
お宅でお話を聞いて知ったのですが、その畑達人のおじいちゃんは、実は酒蔵の黎明期から社長と共にお酒を売り歩き全盛期を支えたやり手の営業マンだったのです。人好きのするガハハという笑い顔が印象的で、酒蔵の昔話を楽しそうに話していただきました。
一方、いきなり押しかけた我々をイヤな顔1つせず手料理で迎えていただいた奥さんは、私の質問にもそれは丁寧に答えていただきました。地元料理の手順をお聞きした時の、「これをそうね、ぺちゃんとするんですよ」なんていう言葉がとてもチャーミングで!そこからまた新しい企画が生まれそうなのですがソレはまだ伏せておかなければ。実はお二人は、翌日朝からお孫さんと一緒に東京の動物園に行く予定だったのですが(スミマセン…)、そんなお孫さんのお話をお聞きするのも楽しくて…。
とにかくそんな色んな方と直接お話して、なにか言葉にできないあの場所の「空気」のようなものを確かに実感できたと思います。
そして1つだけ、確かに言えるのは、誰もが「良い物を作る」ことを、心から普通に、当たり前に考えていることでした。加工の過程でのこだわり、その途方もない時間のかけ方はこれまでの取材で知っていたのですが、たとえば野菜を納入する契約農家の方々をいかに大切に思っているか、自社の畑を耕す人への心配りがどんなものなのか、一緒に回っていると自ずと感じることができます。当たり前のことかも知れませんが、いわゆる「街」で仕事をしているとなかなか実感できない事でもあるのです。
このような人達の「想い」を、使い手・買い手へと伝えるためのコミュニケーションを考えるのが、私の仕事であり使命だと思っています。普段ともすると「市場」や「経験」や「頭の中」や「他の実績」で考えがちな企画作業ですが、実際に体験して、実感を重ねた後に、じわじわと自然に、あるカタチが浮かび上がってくる事があります。今回の取材を通じて、その「じわじわ」の最初のとっかかりを確かに掴ませていただいたような気がします。
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余談ですが、その晩泊めたいただいた立派な和風建築の建物は、以前温泉旅館だったのを買い取り、今は自社のお客様を泊めるためだけに使われているそうです。ちなみに当日泊まったのは私を含め3人。その3人のために、全館を掃除して、お風呂を焚き、深夜帰ってきたらテーブルの上にはおにぎりが握られている(これが実に美味しい!)。世話役の方もいらっしゃって、朝は大風呂に気持ち良く入らせていただきました。お風呂に向かう途中で見た館の外観がコレ(写真)です。すごいですね。
この懐の深さにまた感じ入った後、新潟に帰り、出社しました。
午前中は二日酔いでまったく使いモノになりませんでした。