Column代表亀貝のコラム

日常の「デザイン」

2008.04.08 - 言葉
date - 2008.04.08
category - 言葉

毎号楽しみにしていた雑誌『d:long life design』が休刊になってしまいました。
以下、ちょっと長くなりますができるだけ翻意を変えないよう長めに編集後記より引用します。

デザイン小冊子では、売れませんでした。

長らく「ロングライフデザインを考えて生活しよう」という考え方でこの冊子を作ってきました。実際に売れるのは制作部数の約半分。4年目を迎えこの先も赤字を続けるわけにはいかないと思い、休刊を検討しています。
今回も取り上げました「ジャパンブランド」の現状、つまり、補助金獲得のために需要のみえない伝統的工芸品を生み出してしまうのとさほどかわらず、「ロングライフデザインを考えて生活しよう」と言っても、そして、がんばってもそこには結果としてそれだけの需要しかないわけで、これをデザイナー連中はレイアウトが悪いとか、特集がないのがそもそも冊子として間違ってるなど、指摘をもらいますが、デザインを一生懸命に意識して生活する人の割合など、こんなものなのです。いいデザインについてムキになっているのはデザイン関係者だけで、現実はグルメや旅行、酒(ワイン)、趣味性の強いものなど、そこの強い需要にくらべたら、デザインはまだまだ独りよがりだと思わなくてはならないと思うのです。
(後略)

『d:long life designVOL.20 / 発行人ナガオカケンメイ氏による編集後記より(太字亀貝)。

この編集後記のすごいところが、引用部分の後の「じゃあどうすれば良かったか」を考え、これから生まれ変わる『d』の方針を説明するところなのですが、長くなりますし今回の本題ではないので、省略しました。

さて、そもそもナガオカケンメイ氏が「D&DEPARTMENT PROJECT」を立ち上げた発想の根源には「日本のホームセンターをカッコよくしたい」という考えがあったそうです。

曰く、どんなオシャレな人でも、インテリアデザイナーでも、そんなにこだわった買い物ばかりできる訳ではない。引越してすぐにトイレを掃除する柄の付いたブラシが欲しくなっても、コンランショップには買いに行かず(笑)、近くのホームセンターに行きます。そこで価格の安いそれなりなモノを、不本意ながらも買って使う。壊れないので1年とか使います。ですがあくまで予備軍で、たまたまデートで行ったカッシーナでデザイナーズモノのブラシが見つかったら、いとも簡単に交換。そしてまだまだ使えるはずのブラシが、ごみ箱行きになってしまう。

こんなことが当たり前になっている現状を憂い、もちろんD&DEPARTMENTでホームセンターのような大量の品揃えを実現できる訳ではないけど、全国に30店作ることが出来れば、また、リサイクルのシステムが機能すれば、もう少し、ものの買い方がましになるのではと思ったそうです。

ものすごく良く分かります。ホームセンターが決して悪いとは言いません。むしろ他のお店に比べればマシなモノが見つかるほうですが、いかんせんひどいものも多い。いわゆるデザイン系ショップは盛り上がっていても、スーパーやホームセンターで売られている日用品の「デザイン」は変わりません。

ナガオカ氏の「トイレのブラシ」は非常に分かりやすいたとえ話なのですが、他にも例はいくらでも挙げられます。

ちょうどこのあいだ友人と話していた件。
車の中にドリンクホルダーを付けようとしてホームセンターに行っても、普通にシンプルなものが絶対に見つからない。必ず表には「REFRESH」やら「EXCELLENT」やらの訳の分からん英語がロゴ風になって鎮座しています。この「珍名ロゴ」の呪縛から逃れる方法は、ありません。D&DEPARTMENTや無印のような良識なブランドは、まだカー用品まで手を延ばせていないからです。

トイレの消臭剤。
誰がトイレにあんなド派手な色使いで「消臭力」と書かれた容器を置いておきたいと思うのでしょうか。そしてどんなトイレに「消臭力」は似合うのでしょうか。そもそも、トイレに置いた後まで、効能(オレは臭いをすごく取るんだ見てろよオレはすごいんだ)をあれだけ大々的に連呼し続ける、その必然性は何処にあるのでしょうか。

炊飯器。
ガス炊飯器はまだましですが、全ての電気炊飯器は、メタリック色で、かつ新幹線に似せなければいけない、という法律があるようです。この新幹線の呪縛から逃れる方法はないのかとここ何年か探していましたが、昨年ヤフオクで1969年製の新品ガス炊飯器を購入することで逃れることができました。どんなにホッとしたことか。ちょっとコツがいるものの、とても美味しく炊けています。

話を戻しますが、このような現状に対する不満を、割り切り方を、自分にできることは何かを考えるきっかけを、『d』誌はこれまで与えてくれたように思います。

パラダイス山元氏のサンタクロースの記事、毎回連載の川上典季子さんの海外デザイナーのインタビュー、取り壊されるビルの問題点を追ったレポート、ざっと思い返しただけでもいくつもの名記事が思い浮かびます。

この雑誌は、当初自分で買っていたものの、ぜひ会社のスタッフにも読んでもらいたいと思い、会社で定期購読してオススメもしたのですが、その実は殆ど読まれていなかったようです。

上のような家電や生活用品のデザインの話をして、うんうんとうなずいてくれる人の割合を見ても分かります。

この国で「日常のデザイン」を重視する人の数は、とても少ない。
このことを常に忘れずに、仕事をしていかねばと思います。今回の休刊で改めて考えさせられました。

ナガオカさん、私は『d』を毎号心から楽しみにしていました。そして、今のスタイルの『d』が無くなってしまうのが、本当に残念です。

でも、ありがとうございました。