「foodmood新潟分室」レポート
去る10月23日、「一箱古本市inオギノ通り祭」の一週間後に、北書店で料理家・なかしましほさんによる「foodmood新潟分室」というイベントが開催されました。イベントめじろおしっすね。
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普段は国立でおやつの販売や教室のアトリエをされているなかしまさんですが、この日はなんと北書店がカフェになり、お手製の「バインミー(ベトナムのサンドイッチ。著書『ごはんですよ』より)」とお茶がいただけるという素敵な催しでした。おやつの販売もあって、それは開店後1時間ほどで行列の末に売り切れてしまいました。(お店以外での広告ゼロだったのに、開店前にも行列されていてびっくりでした)
亀貝夫婦は受付のお手伝いを少しだけ。しかし考えられたシステムがとても見事で、大してお手伝いの必要もなかった。
こんなかんじです。
●最初の一時間はカフェをやらず人気が集中するテイクアウト品(クッキーBOXと単品)、カフェチケット(12時、13時、14時など一時間ごとで定数を予約販売)の販売に徹する。なかしまさんもサインやお客様の対応に集中する。
●1時間後からカフェ開始。お客様には「○時ちょうど」に来てもらうように伝える。なかしまさんの調理も15〜20分で集中でき、他はお客様の前に出ることができる。
●メニューもフードをバインミー1つに絞り、ドリップ珈琲は編集の児玉さんが担当。
いや〜参考になります。
この日のためだけに編集の児玉さんが発行した、手作りの「ごはんですよ新聞」。『ごはんですよ』に寄せられた感想を直筆で切り抜いて貼ったり、なかしまさんのお母さんのコメントがこれまた直筆で貼られていたり、なかしまさん・児玉さんのお奨め本が紹介文(これがまた読みたくなるんだ)と共に掲載されていて、その本が北書店に用意されていたりと、本屋さん企画ならではの素敵メディアでした。切り貼りの感覚がすごいです。大変だったでしょうに。ずっととっておきたくなる新聞です。
さらに当日、北書店で本を買われたお客様にはなんとこの日のためだけに制作された限定ブックカバーがつきました。これもなかしまさんの旦那さんデザインで、めちゃくちゃ可愛い。色別で2種、サイズ別で2種、合計4種存在しています。
中に隠された文字が分かりますか?このサービス精神たるや。
とにかく絶品のバインミー。これが食べられただけでも本当にありがたいと思わせる。特別に半分に切ってもらったもの。
児玉さんはフロアマネージャー&珈琲ドリッパーとして活躍。当日の豆はなんと児玉さんが前日ご自分で焙煎されたもの。これが美味しかった!!
同じ週末は徒歩3分の距離にあるカフェ「marilou」でも、なかしまさんリスペクト企画「週末食堂ムードフード」を開催。これは日曜日のメニュー。車麩を使ったキーマカレーは、その後亀貝家で何度も作られました(笑)。美味しかった!
カフェは17:30まででしたが、当然のことながら15時を過ぎると売るものもなくなり、お客様へのサービスとして急遽トークショーを開催しました。この内容がかなりココロにぐっときまして、ぜひメモ書きを残さねばと思った次第です。
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今回北書店に来ていただいたのは、なかしまさんの他に文藝春秋社の編集担当児玉さん、同じく文春で『ですよシリーズ』2冊のデザイン担当の番洋樹さん、『ごはんですよ』担当カメラマンの広瀬貴子さんの4人。まずの話が、皆さん揃って来ていただいただけで、すごいこと!しかもその4人に『ごはんですよ』ができるまでの興味深〜い裏話を聞かせていただいたのでした。文春ではちょっとないタイプの本『おやつですよ』に続く『〜ですよ』シリーズ第2作にまつわるお話。皆さん分かりやすく話されていましたが、これがまた私たちのようなデザイン業界の人間が聞くと、とってもためになる内容だったのです。
以下メモ。録音していた訳ではないのでニュアンスは違ったりすると思いますが何卒ご容赦を。
●児玉さんがご病気で一時休業中、なかしまさんの著作のレシピでシフォンケーキを作り、その美味しさに感激して、復職したら必ずこの人の本を作ろうとココロに決めた。
●なかしまさん曰く。今はホームページやメールで簡単にコミュニケーションがとれるけど、児玉さんは自分で手紙を持ってきた。その姿勢がまず信じられると思った。
●番さんは、児玉さんと別の仕事中に、彼女が作ってきたなかしまレシピのシフォンケーキを食べて感動していた。児玉さんはその時「レシピがいいんです」と言っていた。それがなかしまさんのことを知るきっかけで、『おやつですよ』の制作を手がける。
●番さんと児玉さんは、なんと新潟で開催した「にいがた空艸舎〜その2〜」に、わざわざなかしまさん(とお客様との関係)を見るために、来ていただいていたそうです。児玉さんのことは聞いていたけど、番さんまでとは。それだけのためにですよ。デザイナーさんまで。すごいや。
●カバーに使った「横縞のギザギザが入った」ビニールカバーは、児玉さんが特にこだわっていた。そのために中のカバーをなくす他、コスト合わせにはかなり苦労したそうだ。(でもすっごく分かります。このカバー、実用性は勿論ですが、風合いが大好き。)前回、昨年のなかしまさんのワークショップin北書店でも説明されていたけど、『ですよ』シリーズ2冊はいずれも調理中に開いて置きやすいように、紙や製本を考えているそうです。
●『おやつですよ』から、次の『ごはんですよ』に進むにあたり、カメラマンは違う方、ごはんを撮り慣れている人にお願いしたかった。おやつが美味しそうに見えるのと、料理が美味しそうに見えるのはまた少し違う。
●雑誌や書籍でいつも気になった写真のクレジットがいつも広瀬さん。これはなかしまさんも児玉さんもそれぞれ別で思っていたそう。だけどあまりに人気カメラマンなので受けてくれるかは不安だった。
●なかしまさんのお姉さん・三國万里子さん(ニッター・最近では『ほぼ日』のこの特集で有名)の撮影現場でなかしまさんは広瀬さんの実際の仕事風景に接したことがあり、そこでのストイックな仕事のやり方、淡々とこなす姿勢を見て、さらにお願いしたい思いを深めたそう。
●実際の現場では、広瀬さんは撮るまでが早い。特にごはんは作った後の瞬間を撮らないといけない。たとえば見た目が長持ちする裏技は色々あるけど、そういうことはやりたくないので、すぐに撮って欲しい。長くじっくりと撮るタイプのカメラマンもいらっしゃるが、特に料理はスピードも重要。広瀬さんは、料理を作っている時点からサイズや高さ、内容からどう撮るか、どう光を当てるかを吟味している。だから料理が出てきて、すぐ撮れる。
●番さんは表紙案ができると児玉さんたちと書店でこっそりサンプルを置き、自分たちで歩いて書棚を見て、どう見えるのかをテストしていた。その間に買われちゃいそうになることもあった。(佐藤店長曰く「それってすごい。ベストセラー作家でさえ自分の目の前で買われるシーンに出くわすのは希有らしいから」)
●番さんや児玉さんの誘いでなかしまさんは凸版印刷さんでの刷り出しにも立ち合った(めずらしいことだと思います)。そこでなかしまさんが興味を持ったのは社食だった。絶対社食で食べたいと主張していたそうだ。「みんな気になるよねぇ?」はい。気になります。
●本の印刷時期は、ちょうど震災後で製紙工場がダメージを受け、他の出版物が軒並み見送りになったり延期になったりしていた時期だった。普通だと他と同じように見送りされてしまうところだったが、印刷の担当の方々が「この本だけは絶対守るから」と言ってくれたそうだ。すんなり運んだわけではなく、関係者皆に愛されたからこそ可能になった出版だった。本当に感謝している。(作り手の気持ちって、伝わるもんなんすよね)
写真撮ってばかりでメモしてないんでとりあえずこんな所ですが、とても幸せな話を聞けたなぁ。でも誰もが、どんな状況でも真似できる話だと思う。ちなみになかしまさんは旧中条出身ですが、広瀬さんは燕三条ご出身、番さんは中学時代に数年新潟市にいらっしゃったそうです。あと番さんはとっても気さくな方で色々お話していたのですが、なんとウチの次女と同じ誕生日(笑)(番さん普段は『Number』誌関連のADだそうです。デザイン・編集関係の人なら言いたいこと分かりますよね。すごい方なんです)
開店前の記念写真。左から番さん、なかしまさん、佐藤店長、児玉さん、広瀬さん。
事前告知もなく、たまたまそこに居合わせたお客様だけが聞けた、一つの本にまつわる素敵なエピソード。ちょっと勿体なくて書いちゃいました。亀貝の記憶だけが元です。違ってたら直すのでご指摘ください。
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そもそもなかしまさんと知りあったのは、にいがた空艸舎で知りあったアノニマ・スタジオの編集者・Mさん(新潟市出身)に紹介していただいてからです。最初は新潟でイベントをやるにあたっての漠然とした相談でした。その時点ではアノニマ・スタジオさんとなかしまさんとの繋がりはなかったにも関わらず、Mさんはなかしまさんの大ファンで、イベントにも通ううちに、なかしまさんと仲良くなったのだとか。
その話を聞いただけでなかしまさんにはすごく興味を持ったのですが、おやつを食べてみてなるほどと思いました。最初にいただいたのがアースケーキ(食べないと分からないので食べてください)。新潟には亀貝夫婦が最高に愛するお菓子作家、pituのYちゃんがいるのですが、なかしまさんのおやつは、彼女のお菓子にも似ていて(粉が美味しい)、でもやっぱり違う。今考えてもアースケーキはすごいです。
で、実際に逢ってみて、お話して、またまたなるほどと思います。そのお話の方向性の、バランス感覚。分かりやすいよう言葉を選んで、理論立てて、でもニュアンスを省略することなく、丁寧にはっきりと話す人でした。なぜおやつ作家さんでこんな人が?と思う位、いい意味でイメージと違っていた。にいがた空艸舎にお誘いしたのがどの辺かは覚えていませんが、いずれにしても必然だったと思います。あのイベントの要は、スタッフや出演者に誰を選ぶかの考える時に、決して外せないのが、バランス感覚でした。その後も、イベントでなかしまさんが出るたびに、その話っぷりの気持ち良さに惚れ惚れとしています。
なかしまさんに参加いただいた回の「にいがた空艸舎」のテーマは「ハロー・ライフ・ワーク」、仕事でした(それについては→こちらのページで。他のエントリはこちら)。まさしくなかしまさんの仕事は、みなさんに紹介したいものでした。そして、なかしまさんと一緒に仕事をしている人達も、やっぱり、でした。それが今回分かった。だからあんな本ができるんだ。
「にいがた空艸舎〜その2〜 ハロー・ライフ・ワーク」より、なかしまさんも参加された座談会の様子。マイクを持ったお客様の向こうに、確かに番さんがいました!本当だ!(笑)
『ごはんですよ』は、正直にすごい本だと思っていました。ウチの相方は「レシピ通りに作る」こと自体が大好きなので、料理本は沢山あります。私もつくらないくせに料理本は好きなので結構買います。だからウチには料理本はいっぱいだし、読む(見る)機会も多い。だけど『ごはんですよ』のような内容とデザインの本は、ちょっとないと思う。(そのニュアンスは、是非買って確かめてください)
その理由が、今回よく分かりました。今後も「〜ですよ」シリーズは続いていくようです。大期待です。そしてまた新潟にいらしてください。いつでもお待ちしています。
なかしまさん、皆さん、とても素敵な一日を、ありがとうございました。
当日亀貝が撮った写真はこちらです。→Flickr slideshow
追伸:
アノニマ・スタジオさんで来たる11月18日に、
オオヤミノルのコーヒーと無駄話「No no thank’s no」第7回
のゲストで、なかしまさん・三國さん姉妹がゲストで話されます。
詳細はこちらのページにて。すごくすごく行きたいですが、難しいだろうなぁ。
ちなみに同第4回のゲストは北書店・佐藤店長と京都「ガケ書房」店主、山下さんでした。その模様はこのページの下の方から聴けます。