Column代表亀貝のコラム

手仕事のこと

2009.07.19 - 日々
date - 2009.07.19
category - 日々

ちょっと前に「クラフトフェアまつもと」に行ってきます、と書いたきりでしたので感想を。

橋.jpg緑に囲まれた広大な「あがたの森公園」の全域を使い、250組もの工芸作家さんが作品を展示・販売するイベントです。
すごいスケールでした。広大な公園を埋め尽くす作家さんのテント。その1つ1つに個性があり、本来は1つ毎に小1時間ほどでも見たり話したりできるような内容なのですが、そんなことをしていたら全然回れる数ではない。まず、そのスケールに圧倒され、焦ります。日帰りなのでなおさらです。公園はとっても居心地が良くて、ずっと佇んでいたい気持ちにもなるのですが、そうは問屋が卸さない。池アリ森あり古い学校ありで素晴らしい公園です。
池.jpg


むこうで新潟の知り合いにも逢いましたが、皆口を揃えて「買えなかった〜」と言ってました。その数に圧倒されて、何だかもう訳分からなくなってしまうと。まぁ全員日帰り組だったのですが。

ハウス.jpg最低限、泊まりがけで行った方がイイのかも知れません。そうでなければ全部見るのをあきらめて…イヤそれはあり得ない。なんというか、男っぽい決断力でガシガシ見ていかないと購入の決断までは難しい。

バイヤーさんであれば…自分がそうだったらと思っただけで燃えてきます。だけど所詮自分が買うのは「自分の家で実際に使う、普段使いの器」。あの広大な数のスケールから、数個の「自分の家の普段使い」へ落とし込む作業、その大変さにくらくらする。そんなカンジです。

意外と、会場を出た後に寄る民芸店などで落ち着いて買えたりするんですね。そこでやっとスケールが合う。いくつかお店行きましたけどさすがにレベルが高かったです。

これだけの大きなイベント(二日で11万人だか集客があるそうです)なのに大きなスポンサーもつけずNPOで入場無料で運営されているのもすごい。大変な苦労だと思います。行ったら必ず協賛金を払いましょう。

町.jpg松本の町並みがまた良かった。古い建物を上手に使ったいい感じのお店が沢山。大きな美術館もちゃんとある。新潟と同じく、ひょっとしたらそれ以上に車社会のようですが、何とか折り合いをつけているのでしょうか。松本に詳しい方からは、「クラフトフェア以外の時期に是非きてみて」と言われます。民芸的に素敵な宿もあるそうな。

会場から少し離れたお堀の近くの「松本市はかり資料館」という古い建物を使って、「工芸の五月」の企画展としてF/styleとアノニマ・スタジオが合同で展示・販売を行っていました。ここでのF/styleの展示はまるで昨年のにいがた空艸舎トイレット.jpgの展示をそのまま持ってきたみたいで可笑しかった。建物が似てるんです。とても場に馴染んでいました。アノニマ・スタジオのコーナーではにいがた空艸舎で展示した「エフスタイルへの質問」がぶら下がっていたりして(アノニマ・スタジオのホームページの下の方で写真も掲載されています)。そこで三谷龍二さんの新刊がサイン入りで先行販売されていました。

私はモノ知らずで、木工作家としての三谷龍二さんはあまり存じ上げなかったのですが、雑誌『住む。』の冒頭のコラムが大好きで愛読していました。だから私にとって三谷さんは愛するコラムニストさんのようなイメージで(失礼)。もちろんサイン本を即買いしました。実の娘さんと何度も逢ってお世話になっていることも知らなかった。嗚呼。

三谷龍二さんの『工芸三都物語 遠くの町と 手と しごと』。

これがすごく良かった。私の好きな三谷さんの文が全開。日々の生活と道具のかかわり合い、手でモノを作ることの意味や、手仕事を未来へ繋げていくための、穏やかですが具体的な提言などがあります。じっくりと手仕事の道具を見つめ直したくなります。

たとえばこんな文章。

なんでもないガラスのコップ。そのかたちは少し昔によく作られたかたちだが、薄くすっきりして、きれいなかたちのものです。ものを作る人もまた自分でものを使う人でもあるわけだけれど、そのなんでもないコップが、僕はいろいろ技巧を凝らしたコップよりずっときれいで、一番使いたいコップのかたちだと思うのです。でも、何の変哲もないそんなかたちだと、誰も僕が作ったと思わないだろうし、誰が作っても変わらないものだろう。昔の職人と同じことをしているだけだから、自分でなくてもできるものかもしれません。でも、使うならなんのけれん味もないこのようなコップが一番好きだし、きれいだと思う。ものを作るというのは、なにか自分らしさを加えることだと思ってきたし、その誘惑にも動かされるけれど、でもほんとに自分が使いたい物を作ることが、ものを作ることの誠実だとも思う。だから踏ん張って普通のコップを作ること。そう決断する眼は、ものを作る上で大切だと思います。なんでもないものをいいという勇気は、自分の眼を信じるところしか生まれないのでしょう。

三谷龍二『工芸三都物語 遠くの町と 手と しごと』

今改めて写していて、自分にとっての「民芸」観にも繋がるなぁと思いました。丁寧で、優しくて分かりやすい。勿論重ねてきた人生経験があるからこそ生まれる、シンプルな言葉の中の説得力。こんな文章が私は好きです。

サイン.jpg