本屋のこと

去る1月11日(日)、新津の英進堂さんという本屋さんへ、F/styleのトークショーに出かけてきました。広いお店の隅っこのスペース、普段はソファとテーブルが置いてある近くに(この場所は初めて見た時から気になっていました)、20〜30人?くらいが床に座ってF/styleの2人の話を聞きました。


まずは書籍『エフスタイルの仕事』ができるまでの舞台裏。完成までに3年かかったその成り行きと、アノニマ・スタジオのとことんまで丁寧な本造り。デザイナー山口信博氏やカメラマン長野陽一氏との「そこまでやるか?」の突っ込み具合。凸版印刷での刷り出し立ち合いの話。などなど…

527_1.jpgさらに本屋さんならではの企画で、彼女達が好きな本を紹介するコーナーも。現在新潟市の北光社で行われている「エフスタイルの本棚」という企画(彼女達が『エフスタイルの仕事』を作るにあたって影響を受けた書籍を推薦文付きで陳列している)に絡め、その何冊かかを紹介しつつ、自分たちの考えとの共通点や、どのように影響を受けたかを話していました。違う本屋さんでの企画が、このように補完しあう関係って、凄くイイね。

休憩を挟んで参加者からの質問に答えた後、最後にドッキリ企画(?)で、現場にいらっしゃった色んな業界の方をF/styleの2人が紹介して、一言話す時間もあったり。そもそもこのトークショーのきっかけを作っていただいたパン・ド・メルソーのご主人やスタッフの方、F/styleの同級生でハローマイホームさんとも関係のある設計のお仕事をしている田中さんや、五泉の靴下の作り手の上林さんマリールゥや亀貝など…。

その場でも話したのだけど、自分は、「新潟の良さって?」と言われても以前はなかなか即答できなかったし、自分の住む新潟に、心から自信を持てずにいたのです。最初の質問には今だに即答はできないかも知れないけど、だけど、少なくともこの何年かで確実に、地元に自信が持てるようになったのは確か。何故そうなったかと言えば、これは別に場所とか風景とかお店を知ったからではなく、ヒタスラに人との出会いからだったと思う。

同じ新潟に、こんなに凄い人達が住んで、頑張って働いているというだけで、どれだけ地元に自信が持てるようになったか分からない。娘を生んだ助産所の助産師さん、建築家の伊藤純一さん、パン・ド・メルソーの佐々木さん、F/styleやマリールゥの2人、そして「伝書鳩の手紙」を書く奇跡の2人・のみの音楽舎、他にもまだたくさん…。それぞれについて書いていたらそれだけで紙面は尽きてしまうけど、いつか必ず書いていきたい。そんな人達が近くにいるというだけで、頑張っていける。やってける気がする。そういうことって、あるよね。

そんなことを教えてくれた、人と人の出会いを何より大切に考えるF/styleの2人らしい、素晴らしいトークイベントでした。

終わった後にF/styleや英進堂の店長さんと話していたのだけど、本屋さんで店員さんとお客さんが会話を交わすのが、最近は本当になくなった。勿論お客様どうしの会話も。英進堂さんは、少しでもお客様どうしの会話のきっかけになればと思って、例のテーブルとソファのコーナーを設けたのだそうだ(実際は難しいよね、とおっしゃっていたが)。また、昔の本屋は、本のことについて、お客様から教わっていくのが当たり前だったそうだが、今はそれもなくなったと。

これからの本屋像についてイベントでF/styleに質問したのだけど、個人的にはやっぱり「場」なんだと思う。ネットでデータベースのような密林本屋さんができた以上、ただの「指名買い」なら中規模以下の書店ではかなわない。それよりも本屋さんという「場」だ。そこに行きたい。行ってダラダラと過ごしたいと思わせる、何か知らない面白いモノを見つけられそうな、そんな空気だ。それって何から作られるのかといえば、やっぱり人なんだと思う。

後日、相方に教えてもらった『暮らしの手帳』最新号のコラムがとても興味深かった。編集長・松浦弥太郎氏による「いい景色とは何だろう?」というコラム。何故今の商売(本屋)を始めたのか、何故編集業を続けているのかと聞かれたら、ある書店で見た「いい景色」を自分で作っていきたいからだ、という話。

その「景色」については本文を読んでいただくとして、その「景色」を見るきっかけになった、サンフランシスコの書店「シティライツ」の話が良かったのだ。初めて行った時の印象が「当たり前のことが、当たり前に行われている場所」だったという。

「こんにちは。元気ですか?何かお困りですか?どうぞくつろいで。大丈夫?いいお天気ですね。さようなら。また会いましょう。」こんな言葉を、店員はもちろんのこと知らない人からも「次から次へと笑顔をともに投げ掛けられる雰囲気に満ちていた」。

そして氏はその後アメリカを旅しながら、本屋の本来の役割を実感したと言う。

本屋とは、本を沢山売ることが目的ではなく、その場所にたくさんの人や情報が集まって、そのことからたくさんの出会いがあって、たくさんの人が喜ぶべきものやことが発信されていく場所であると知った。もちろんそのためには、本が売れなければ困るが、それは店主の個性の表現であり、腕の見せ所でもある。店を訪れる人は、まずは店主の選んだ本を選びにくるというのが目的としてあるので、心配はいらない。本を選ぶことは、店主と対話するのと同じことだった。
 知りたいことがあったら、まずは本屋に行って聞いてみる。トイレに困ったときも本屋に行こう。旅をしていて、最初に訪れるのは本屋だ。そしてその街の情報を集めよう。本屋はその街のキーステーションであり、もっとも安全な場所。欧米では、これが旅人もしくはそこに暮らす人の合言葉だ。
「シティライツ」は、お気に入りの場所になった。毎日通って、本を読んだり、選んだりしながら、椅子に座って一日中くつろいだ。ともだちと待ち合わせをしたり、その頃はカフェに入るお金もなかったので、店の椅子を並べて、夜遅くまでおしゃべりするなんてざらだった。毎日来るものだから、店の人からすぐに顔と名前を覚えられて、ある日はコーヒーを淹れてくれたりと、まるで家族を迎えるようにして、もてなしてくれた。
(『こんにちは さようなら』松浦弥太郎・『暮らしの手帖 No.37』より)

この箇所を最初に読んだときに、不覚にも涙が出そうになりました。夢に見た場所が、この世界のどこかにあるんだ。そんな気持ちになりました。別にお客さん同士がコミュニケーションを交わすのが全てではありませんが、言葉は交わさなくとも、お互い「分かっている」その空気感ってあるじゃないですか?自分は特に昔通っていた古本屋さんなんかにその「空気」を感じました。それが気持ちよいから、居心地が良いから通う。お店のセレクトを味わう。そしてお店を気に入って、投資(買い物)する。自分の消費は、そうあって欲しいです。

そうそう、このトークショーの夜に開催したにいがた空艸舎の鍋会議では、「消費の意味」について盛り上がった。「消費は投票だ」と言った人がいるそうですが、まさに自分自身ソレはいつも考えていて、たとえば空艸舎で紹介することになった上越の農家「冬の日」さんと契約し、有機野菜を自宅で取り寄せることにしたのも、支持を示す消費。「有機農法」というのはまさにそういう考え方で、出来上がる「有機野菜」がすべてなのではない、表面上の味が全てなのではない、小さな循環を取り戻すために真摯に「有機農法」で農家をやっている「冬の日」の石黒さん夫婦を、そのさまざまな姿勢を、私達家族は支持しますよ、という消費なのです。勿論その結果我々の得るモノのなんと多いことか。私は人にこのやり方の良さを説明する時、「通信教育」という例えを使っています。本当に多くのことを教わっています。
冬の日さんの連絡先

話を戻して、逆に店員のレベルやお店の姿勢が全然気に入らない本屋さんがあったとしても、そこで1冊買えば自分はその分、お店を支持したことになる。欲しいクオリティの製品がなくて、イヤイヤ買ったとしてもソレは明らかにその製品に対して賛成票を投じたことになる。だから1つも買わないとかそういう話ではなくて、その意味を忘れずに消費をしたいな、という話で。

友人のカメラマンと次世代レコーダーは何を買うか、という話をしていた時、彼は「どうせ何だか分からないならパナソニックを買う。あそこの企業姿勢が好きだからだ」と言い切っていて清々しかった。あとパイオニア(カロッツェリア)のカーナビが最初いかに苦労して開発したかを知ったから、その姿勢に賛同するから、ナビは必ずカロッツェリアだと。高くても必ず楽ナビを買うと。確かに楽ナビは他社に比べて使いやすさが段違いなんですが。

自分の消費に責任を感じるようになれば、おのずと世の中の製品や企業の内容に関心を持つようになる。当然良い物は買い、さらには人に紹介し、悪い物は買わず、買った場合は時により企業やお店へ意見をすることもある。そんな当たり前のことがちゃんと当たり前になったら、自分の住んでいる場所が少しずつ居心地が良くなっていくと思いませんか。少なくとも自分は当たり前にそう思っています。

えっとトークショーの話から随分ズレましたが、F/styleの書籍や話というのは、いつもそういう大切なことを考えさせられます。そして今回のイベントは、まさにウチのような業種の人にこそ聞いて欲しい内容でした。また何処かでこんなイベントがあるとイイな。

↓リンクしていますが、内容御確認後はお気に入りの書店でお買い求めを(笑)。きっと他の面白い本も見つかりますよ。

エフスタイルの仕事
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